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全国の幼稚園・保育園では、それぞれ独自の哲学や方法論に基づいた保育が行われています。私たちは特定の保育観を推奨したり否定したりするのではなく、多様な実践を丁重に観察・記録・分析することで、子どもの育ちに関する知見を深めることを目的としています。

さまざまな保育の「考え方」を研究する

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主体性・環境構成

Vol.01

「ワクワク」を設計する保育——空間と人が子どもの興味を引き出すとき

保育の場に足を踏み入れると、その園の「考え方」が空間ににじみ出ていることがあります。壁の色、置かれている玩具の種類、保育士の立ち位置——何気なく見える風景のひとつひとつが、実は子どもの育ちに対する哲学の表れです。

ある保育園では、「子どもも保育士も、毎日園に来るのがワクワクする場所にしたい」という考えのもと、空間づくりに力を入れています。たとえば、園独自のキャラクターや内装を取り入れることで、どこにもない「この園だけの世界」を作り上げています。子どもたちにとって保育室は、単に預けられる場所ではなく、毎朝「今日は何があるだろう」と期待を持って訪れる場所であることが目指されています。

玩具の選定もこうした思想と連動しています。大人があらかじめ用意した活動を「こなす」のではなく、子ども自身が興味を持ったものに自然と引き寄せられるよう、素材や配置が工夫されています。遊びの主役は、あくまでも子ども自身です。

一方で、こうした環境を支えるのは空間だけではありません。同じ園では、保育士一人ひとりが子どもの気質や月齢ごとの発達の違いを深く理解した上で保育にあたることを重視しています。乳幼児期は月齢によって発達の状況が大きく異なるため、「この子には今、何が必要か」を見極める力が求められます。そのために、園内研修や園長会を通じて保育士同士が情報を共有し、園全体で保育の質を高めようとしています。

私たちが注目するのは、「環境」と「人」というふたつの要素がどのように組み合わさって、子どもの主体性を育てていくのか、という点です。どちらか一方ではなく、空間の工夫と保育士の専門性が互いに補い合うことで初めて生まれる育ちの形があるとすれば、その関係性を丁寧に観察・記録していくことが、私たちの研究の出発点になります。

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適時教育・専門性

Vol.02

「この時期にしかできない」という確信——年齢に応じた専門的プログラムをもつ園

「三つ子の魂百まで」という言葉があります。幼児期に受けた教育や経験は、その後の人格形成に大きな影響を与えるという、古くから言い伝えられてきた知恵です。この考えを保育の軸に据え、「今この時期にしか育てられないものがある」という強い信念のもとで専門的なプログラムを組んでいる園があります。

たとえば、音感・言語・体育といった領域に専任の講師を置き、それぞれの専門性を活かした指導を行う園では、クラス担任一人ではなく複数の大人が子どもにかかわります。年に数回、担任が交代することで、子どもがさまざまな大人との関係を経験できるようにする仕組みも取り入れています。

この保育観の特徴は、「発達に適した時期に、適切な刺激を与える」という「適時教育」の考え方にあります。子どもの可能性を最大限に引き出すために、体系的・計画的なカリキュラムが設計されます。

こうした園では、年間の行事も重要な教育機能を持ちます。発表会や運動会などを通じて子どもが達成感を得ることで、意欲と技能が相互に高まると考えられています。保育の「成果」が目に見えやすい形で現れやすいため、保護者からの信頼を得やすいという側面もあります。

私たちが研究として関心を向けるのは、「早期の専門的指導」が子どもの発達にどのような軌跡を描くのかという点です。就学後の学習への適応、友人関係の築き方、自己肯定感の育ちなど、追跡的に見ることでしか見えてこないことがあります。一方で、こうしたプログラム中心の保育が、子どもの「遊ぶ時間」とどのように折り合いをつけているかも、観察の重要な焦点です。

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テクノロジー・データ活用

Vol.03

「感覚」を「データ」で補う——テクノロジーを保育に取り入れる新しい挑戦

保育の世界に、データや技術の視点を持ち込もうとしている動きがあります。「子どもの様子を見ていればわかる」という熟練保育士の感覚は、長年の経験から生まれる貴重なものです。しかし一方で、その感覚はどうしても個人差が生じやすく、ほかの人に引き継いだり、客観的に評価したりすることが難しいという課題もあります。

そこで、子どもの活動記録をデジタルで収集・分析したり、保育業務のどの部分をテクノロジーで効率化できるかを検討したりしている園があります。たとえば、日々の活動の記録から子どもの行動傾向を把握し、個々の気質や発達状況に応じた保育に活かす試みです。保育士の「なんとなくこの子は今日調子が悪そう」という直感を、データによって裏付けたり、あるいは見落としを補ったりすることが目指されています。

このアプローチの核にある問いは、「保育の質を、感覚だけでなく客観的な根拠に基づいて高められるか」というものです。「再現性のある保育」——つまり、特定の保育士だけが実現できるのではなく、園全体で共有・継承できる保育の形を模索しています。

もちろん、保育はデータだけで語れるものではありません。子どもの表情、声のトーン、その日の天気や家庭環境——数値化しにくいあらゆる要素が、保育の現場には溢れています。テクノロジーはあくまで保育士を支える道具であり、人のかかわりそのものを代替するものではない、という立場を多くの実践者が共有しています。

私たちEdSL(Educational Data Science Lab)が行っている研究は、まさにこの接点にあります。保育の中で何が起きているのかを丁寧に記録し、データとして分析することで、現場の実践知を可視化し、広く共有できる形にすることが私たちの役割です。テクノロジーを保育に持ち込む試みを、批判でも礼賛でもなく、実証的な目で見つめていきたいと思っています。

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